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070 けた外れだったイタリア映画のパワー [大作時代到来]

070 けた外れだったイタリア映画のパワー
     イタリア史劇とD・W・グリフィス-①

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●1910年代半ばから本格的映画館が登場。ニッケル・オデオンの影が次第に薄れる。

  1910年代のイタリア映画界は、文芸路線を呈するフランスの流れを受けていました。ただしそれは、スタジオの中だけで収まるようなスケールではありませんでした。

●叙事詩と歴史劇なら題材に不足は無い
 アメリカが短編映画にこだわっているうちに、イタリア映画は史劇大作で世界の映画界を席巻するようになりました。
 叙事詩や神話、歴史的エピソードなど、古典的素材に事欠かない上に、アルプスの山岳地帯から地中海の海原にまでおよぶ南北に長い国土、古代の歴史遺産など、その風土はそのまま映画の舞台になりました。そこで生まれたものは、他国の追随を許さない壮大な歴史劇でした。  

 イタリアで突出して話題作を送りだしていたのは、イタラ社、チネス社、アンプロージオ社でした。それぞれ、ジュゼッペ・デ・リグオロ、ジョバンニ・パストローネ、エンリコ・グァッツォーニ、ルイジ・マッジらの看板監督を擁して大作力作に取り組んでいました。

 イタリアといえば世界のだれで知っているべスヴィオ火山。アルトゥーロ・アンプロージォオ監督がまず1908年に手掛けたのは「ポンペイ最後の日」でした。この作品は20分足らずの短編でしたが、誰もが興味を抱いてきた大噴火の様子と、ポンペイの滅亡する姿が目の前に生々しく再現されるのを見て、観客は大興奮。これが評判を呼び、長編大作への取り組みの口火が切られました。

pompeii.jpg「ポンペイ」2014

 「ポンペイ最後の日」はその後、1913年にマリオ・カゼリー二監督によりリメイクされ、イタリア・スペクタクル史劇の定番となります(次回に記述)。
 
最近ではそのものズバリの「ポンペイ」(2014)がまだ記憶に新しいことでしょう。もちろん呼び物はCGによる大噴火の描写でした。
 このようなスペクタクルはイタリア史劇に限らず、ビッグスケールの作品ほど、その時代の最先端技術で作りなおしてみたくなるものなのでしょう。

P1140053.JPG
●ホメーロスの叙事詩をベースにしたオデュッセウスの大航海冒険譚「オデュッセイア」1911


●特撮いっぱいの「オデュッセイア」1911 全巻ご覧になれます。いい時代になりました。


 話題を呼んだ長編映画は「マクベス」(1909)、「ファウスト」(1910)、「ブルータス」(1910)、「イリアッド」(1910)、「オデュッセイア」(1911)といった叙事詩や古典的な物語でしたが、熱狂的な支持を得た作品はギリシャ・ローマ時代の神話や歴史をテーマにしたものでした。
 イタリアの人たちにとっての時代劇は、自国の歴史を知るだけでなく、壮大なアクションとして楽しめたからです。


●100年も前に、あの映画の元祖があった
  イタリア映画界で長編の先鞭を切ったのは、
1910年にイタラ社でジョバンニ・パストローネが監督した「トロイの陥落」でした。ギリシャ神話であの有名な木馬が出てくるトロイ戦争の物語です。ウォルフガング・ペーターゼン監督、ブラッド・ピット主演「トロイ」(2004)の元祖が、すでに100年前に作られているのです。

 元祖「トロイの陥落」は、
600メートル、30分。この映画では、城壁や宮殿などの壮大なセットが組まれ、ギリシャの歴史に詳しい二人の画家が考証に当たった他、美術品や衣装はミラノ・スカラ座の道具方が協力したということです。

トロイ1.JPG トロイ2.JPGトロイ3.JPG
トロイ4.JPG●「トロイの陥落」1910 



トロイ.JPG●「トロイ」2004

 グァッツォーニを師とするマリオ・カゼリーニは、1910年に「エル・シド」を発表していますが、私たちが知る1961年製作、アンソニー・マン監督の「エル・シド」では、チャールトン・ヘストンと妖艶なソフィアローレンが主演しました。
 クライマックスは大挙して押し寄せるムーア人との戦闘シーン。海沿いの城と海岸線はモンサンミッシェルで撮影したものではないかと思っているのですが…。(ご存知の方、教えてください)

エル・シド.JPG
●「エル・シド」1961 上下とも
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また1912年には、グァッツォーニがチネス社で「クオ・ヴァディス」を監督しました。ローマの闘技場でキリスト教徒たちがライオンの餌食にされる衝撃のシーン。私たち昭和世代は1952年にマービン・ルロイ監督、ロバート・テイラー、デボラ・カー主演の同名映画で観ています。


クオ・ヴァデス.JPG●「クオ・ヴァディス」1952

 
グァッツォーニの監督作品では、この他に1913年に撮った「スパルタカス」がありますが、私たちが同名リメイクを、スタンリー・キューブリック監督、カーク・ダグラス、ジーン・シモンズ主演で観たのは1960年のことでした。

スパルタカス.JPG●「スパルタカス」1913
P1140055.JPG●「スパルタカス」1960

 
グァッツォーニはこの年「アントニーとクレオパトラ」も撮っていますが、私たちは1971年に同名映画を、主演のチャールトン・ヘストン自身の監督でヒルデガード・ネールとの共演で観ています。

 
アメリカの話でついでに言えば、出エジプト記のハイライト、紅海が二つに割れる場面で有名なモーゼの「十戒」は、1922年にセシル・B・デミル監督が作りましたが、カラー時代に入ってからデミル自身の手で1956年に、ユル・ブリナー、チャールトン・ヘストン主演でリメイクされました。

デミル.jpg●セシル・B・デミル

 
また1959年、壮絶な四頭立ての戦車競争が展開するウィリアム・ワイラー監督、チャールトン・ヘストン主演で観た「ベン・ハー」は、1925年にイタリアのフレッド・二ブロ監督によってすでに作られていました。
  映画史に興味をもって資料をあさっているうちに、こういった大作がサイレント映画の時代に早くも作られていたことを知って、本当に驚いたものです。

アントニーとクレオパトラ.jpeg十戒.jpegベン・ハー.jpeg
●昭和世代がカラー、ワイドスクリーン、ステレオ音響で観たリメイク大作


●アメリカにも押し寄せたイタリア歴史劇の大波
 1912年の「クオ・ヴァディス」は、紀元1世紀、ローマ帝国の暴君ネロによるキリスト教徒の圧制を描いたもので、2時間もの長編でした。
 この映画が封切られたのは、ゴーモン社がパリに作った世界最大の映画館「ゴーモン・パラス」でした。音楽はこの映画のために作曲され、オーケストラと150人のコーラス隊によって上映されたということですから、観客はそれまでに体験したことのない感動の渦に飲み込まれたことは想像に難くありません。


クオ・ヴァディス1.JPG クオ・ヴァディス2.JPGクオ・ヴァディス3.JPG    
●「クオ・ヴァディス」1912 


 
こういったイタリア映画における大作づくりは、必然的に撮影手法、編集技法に磨きを掛けることになります。ハラハラドキドキの桁外れのクライマックスが用意されている歴史劇は、長編を望む世界の人たちに迎えられました。
 これらの映画がアメリカにも輸入され好評を博すようになると、長時間をゆったりと楽しめるように、きらびやかに飾り立てた大規模な映画館が米国の各地に誕生し始めました。
 映画はプアな人たちの暇つぶしの娯楽ではなく、芸術の香りを備えた高尚な楽しみに変わりつつありました。


●イタリア映画はタイムマシンの元祖
 ところで初期のイタリア映画は、これまでに見てきたように、他の国々がほぼ「現在」という時代背景のもとで作品づくりをしていたのに対し、「大過去」の歴史劇を特徴とした点が大きく異なりました。数千年、数百年という過去の町並みや家々が再現され、撮影の現場にはその時代の小道具が用意され、出演者やエキストラたちはその時代の髪形と服装で集まりました。まるで時間や空気までもその時代に遡った雰囲気を醸し出していました。

 彼らは観客が体験する前にいち早く過去の時代に同化し、過去の事件を現在の自分の身に起こった現実の状況として反応しました。それはもはや演技とは言えず、実際にその時代に生きている感覚を味わったに違いありません。
 もはや映画は、スクリーンに等身大の姿を写すだけではなく、もう一人の自分の〈分身〉が、時間と空間の隔たりを越えた別次元の世界に極めてリアルに存在するという不思議な体験。それは観客にしても同じこと。人々は理由は分からないながらも、簡単に時空間の壁を超越できる映画というものに、底知れない魅力を知らされたのでした。

IMGP8668.JPG●デビッド・W・グリフィス

 バイオグラフ社の監督デビッド・W・グリフィスは「クオ・ヴァディス」の成功を聞くにつけ、居ても立っても居られませんでした。長編を志向していたグリフィスに、ようやくそれを製作する環境が整ってきたのです。彼の頭の中には、イタリア映画に負けない時空間超越の大型作品構想が膨れ上がっていたのです。     
                                 
つづく

★添付の動画は本来は無声映画です。
 音楽や効果音は、当時の公開状況を想定して後世に付けられたものです。








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コメント 7

般若坊

いよいよ 映画万歳!の時代に突入ですね・・・イタリアには取り上げるべきテーマが山積していますから、巨匠たちはどのような切り口にするかを競うことになりましたね。時代スペクタクルにわれわれは、熱狂と感動をいただきました。

by 般若坊 (2015-07-08 08:51) 

sig

般若坊さん、こんにちは。
ようやく1910年代にこぎつけました。もう少し進めれば皆さんがご存知の時代になりますから、そこまでにしたいと思います。あともう一息です。
by sig (2015-07-08 11:29) 

さる1号

確かにイタリアの歴史はアメリカとは違って長いですからそういった歴史大作ができるのでしょうね
ならば日本でもできそうなのだけれど。。。。何故無いのでしょうね
現存する世界最古の国家とギネスにのっている国なのに(ーー;)
by さる1号 (2015-07-08 14:35) 

sig

さる1号さん、こんにちは。
世界最古の国家とは名誉なことですね。あまり古すぎてみんな崩れたり埋もれたりして消滅しちゃったんでしょうね。材質も石材はともかく、木材と紙ですものね。やはり石で組み立てられたものに吐かないませんよね。
by sig (2015-07-08 15:15) 

green_blue_sky

知っている英が並んでいる。
トロイの木馬、エルシド・・・1910年代に製作されているんですね。すごい。
映画の歴史、長いですね(^▽^;)
by green_blue_sky (2015-07-08 20:18) 

sig

green_blue_skyさん、こんばんは。
ほんとに。私たちの見たイタリア史劇大作は、みんなリメイクだったんですね。この記事は調べてみてわかった私の実感なんです。
ここまで連載の回を重ねても、まだトーキー時代に入っていません。でもこのブログは、そのころからはもう皆さんがご存じのことになりますので、間もなくおしまいにしようと思います。
by sig (2015-07-08 23:11) 

077シリーズ映画

コメント
by 077シリーズ映画 (2016-03-11 21:37) 

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